お話「ラムネ屋トンコ」

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第四回 昭和二十六年 初夏 また幼稚園に通う

第004回の絵

私は虫垂炎と百日咳を患い、年中組から年長組にかけて半年間幼稚園を休み,家で過ごしました。

初夏には元気になり、幼稚園に行けるようになりました。

年長組の担任は、お母さんのような慶子先生です。

慶子先生が通勤途中に寄って、連れて行ってくれます。

K橋を渡ってすぐの、文房具店の同い年の誠ちゃんや、テイラー(紳士服仕立屋)の成一ちゃん達と一緒に行きます。

私は先生と年長組に、すぐ馴れました。

キリスト教会の幼稚園なので、神様やイエス様のお話の時間があります。

牧師先生の奥さんの園長先生が、お話の後に「目を閉じてお祈りします。」と言ってから「天の神様。」とか「天のお父様。」と、お祈りが続きます。

天井に神様が現れるのかなと、私はそっと目を開けて上を見ました。

何にも見えません。

みんなを見ると、目を閉じて手の指を組んでいます。

ところが、一人だけ目を開けて、私の方を見ている男の子がいます。

その男の子が、指で鼻を押さえて豚の真似をしたので、私は思わず「ブフフフ。」と笑ってしまいました。

園長先生の顔が、とても怖い顔になりました。

お年寄りの先生が私の手を引いて、階段を登って二階に行きました。

その先生はすぐ下りて行き、私は一人ぼっちです。

初めての部屋なので、周りを見回すと、階段が上に続いています。

誰かが呼んでいるような気がします。

この上に神様がいるのかなと思って、私はそっと階段を上りました。

周りがガラス窓の明るい部屋で、天井から大きな鐘がぶら下がっています。

窓から青空が見えて、小鳥のさえずりが聞こえます。

背伸びして窓から外を見ると、若葉が風にゆれて輝き、天窓から気持ちのよい風が入ってきます。

「ここは天国かな?」と、ふと思いましたが、天使もいないし天国と違うようです。

「神様は目に見えないけど、みんなを守ってくれる。」という牧師先生のお話を思い出しました。

私は目に見えないけど、神様がいるんだなと感じたのです。

その時下の方から、バタバタと音がしたので、私は大急ぎで二階へ下りました。

お年寄りの先生が私の手を取って、年長組の部屋に連れて行きました。

みんなはお弁当を食べています。

私がお弁当の用意するのを、慶子先生が優しく手伝ってくれました。

お弁当を食べ終わるのが少し遅くなったけれど、午後も楽しく過ごして、元気に家に帰りました。

その頃から、母はお弁当と夕食を作くれるようになりましたが、疲れるのかその後すぐ休憩します。

私は神様が守ってくれることも分かり、母の作った弁当や夕食をしっかり食べて、強い女の子になったよう思います。

ある日、姉がシクシク泣きながら、学校から帰って来ました。

何かいじわるなことを、川向こうの男の子に言われたそうです。

私はすぐ川の側に行き、二人の男の子を見つけました。

従兄弟のラジオから聞こえた言葉の真似をして、「女の子をいじめるのは弱虫だー。ひきょう者―。」「こんど女の子をいじめたら、みんなに『この人は弱虫だー。ひきょう者―。』と、言ってやるー。」と、叫びました。

男の子は何かモゴモゴ言いながら、帰って行きました。

その後、私は家の外では、決して泣きませんでした。

しかし、幼稚園から帰った時、母が病院に行って留守で、おやつがない時だけはワーワー泣きました。

けれども、さんざん泣いた後、決まっておやつは見つかるのでした。

私は泣いた後は、気分がスカッとすることを知りました。

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