第四十七回 昭和三十二年 冬 劇は楽しい
六年生の十一月、「日曜学校のクリスマス会で劇をすることになったのよ。一緒にしよう。」と真知子ちゃんが誘ってくれました。
日曜日の午後、クリスチャンホームの嬉子ちゃんと礼子ちゃん、それに私が加わって四人が集まリました。
教師の友という雑誌数冊を私達の前において、「この中に劇の台本が載っているから選んでね。」と日曜学校の先生。
キリストの生誕劇や金持ちのザアカイの話などありましたが、私達は若い女性のでる「カナの婚礼」の劇を選びました。
先生は、役を決めるのも、衣装をどうするかも全部私達に任せてくれたのです。
みんながそれぞれ読んでみて、役を決めました。
衣装は相談の結果、教会の白いカーテンを借りて、全く切らずにドレス風に大きい目で縫い、首のところにゴムを入れることにしました。
色のついた紐で、腰を結ぶとよいようです。
次の日曜日に衣装作りの後、台詞の読み合わを始めました。
さあ、今度は動作を付けて劇の稽古です。
「ここはもっとゆっくり言った方がいいよ。」「客席の方を見て言おうよ。」「笑顔の方にがいいわ。」など四人で相談し合って、稽古を続けました。
とても楽しくて、クリスマスの日が楽しみです。
クリスマスの前の日曜日、礼拝堂のアドベント・クランツ(待降節にろうそくを立てるために緑の小枝で作った輪の台)に三本のろうそくが立ちました。
午後、先生達に、私達の劇をみて貰いました。
「素晴らしいわ。」と大きな拍手です。
クリスマス当日、アドベント・クランツに四本のろうそくが輝いています。
日曜学校のクリスマス会に子どもも大人もたくさん集まりました。
稽古の時以上に、私達は気持ちを込めて劇をしました。
みんなから拍手喝采を受けて、私達四人は「ヤッター。」と感激しました。
劇はうまく出来たし、みんなで協力して劇を作り上げる楽しみを味わって大満足です。
その上、四人が大の仲良しになれたことも、とても嬉しいことで、これは神様からのクリスマスプレゼントのように感じました。
今までは、劇にでて母に誉められることが夢でしたが、四人で楽しかったので、母に見に来てもらうのをすっかり忘れていました。
残念ですが、仕方ありません。
クリスマスが終ると年末です。
町内で最近テェーンストアーのお店を始めたおばさんが、「としちゃん。年末忙しいので手伝いに来てね。」と頼みました。
この前、町内会の集まりがあって、おばさんが出席した時、私が留守番代わりに行って手伝ったので慣れています。
私は頼りにされたのが嬉しくて、すぐに「ハイ、喜んで手伝います。」と返事しました。
年末の三日間、お店のお手伝いのお姉さん役を引き受ける気分です。
お店に行ってみると、お正月用のしめ縄や松飾が届いていたので、店先に並べました。
お客さんが来て、「若い愛嬌のあるお姉さんがいるのはいいね!」とおだててくれます。
私もおだてに乗って、もっとにこやかないい声で、「いらっしゃい。ありがとうございます。」と挨拶をしました。
お店のおばさんも、手伝うことを喜んでくれています。
「愛想いいお姉さんがいるからまた買物に来たぞ!」と近所のおじさんやお兄さんのお客さんが冗談を言います。
私は年末のお店で、手伝いの女の子役の劇をしている気分です。
三日間のとても楽しい劇が終りました。
大晦日に、おばさんが「これは少ないけどお礼よ」と言ってお金を入れた封筒を手渡してくれました。
家に帰って中を見ると六百円も入っていました。
年末のお店の劇を楽しんで、お金を貰って私は嬉しくてたまりません。
「愛想よく手伝ったから、お兄さんやおじさんのお客さんが喜んでいたよ。」と父に話しました。
すると、父は不機嫌な顔をして「愛想がいいのはいいけど、媚びを売るのは嫌いだ。」と言いました。
私はその意味が分からないので、台所でおせち料理を作っている母に、聞きました。
「必要以上に愛想笑いを振りまいて、余分なお酒や物を売りつけることよ。」と母。
「私は押し売りはしていませんよ。お父ちゃんは私がおじさんやお兄さん達と親しくなるのが嫌なんだ。」と独り言を言いました。
家族みんなで年越しそばを食べた後、私は百人一首を思い出しながら詠んで、お正月の子どもかるた会に備えることにしました。
姉はおせち料理の手伝いをしますが、私はあまりしません。
私が料理を手伝うと、食材を落としたり調味料を間違えたりするので、母が落ち着いて料理ができないらしいのです。
エビの頭取りや、豆をさやから取り出すことは手伝っていました。
だから、私はお店の手伝いに行く方がいいと思います。
ラジオから、NHK紅白歌合戦が始まって、お笑い三人組という番組に出る、楠木敏江と言う人の歌が聞こえてきました。
母は早くおせち料理を作り終えて、大好きな美空ひばりの歌をゆっくり聞きたいようです。
私は眠くなったので床に入り、ラジオから流れる歌を聴いていましたが、そのうち眠ってしまいました。
さて、お正月になりました。
毎年来ていたY市に引っ越したいとこは、高校生になり来ませんでした。
散髪屋さんがテレビを買ったので、「テレビをみにおいで。」と弟は誘われたようです。大喜びで観に行きました。
恒例の子どもかるた会は、参加者がいないので出来ません。
私は、田舎のいとこの俊枝ちゃんの家に行くことしました。
俊枝ちゃんの家の中では福笑いや花札、外では竹馬や凧揚げに夢中になり楽しく過ごしました。