お話「ラムネ屋トンコ」

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第二十六回 昭和三十一年 初春 五年生は男女別

第026回の絵

四年生の三学期に、四月から新五年生だけ、男女別クラスになるという、うわさが流れました。

四年生の先生達が、PTAの役員のお父さんやお母さん達に、相談したらしいのです。

男女別にしたら、女子がおとなしくなると、先生達は考えたのでしょうか。

私達はどうなるのかと、興味津津でした。

始業式の日、学校に行ってみると、うわさ通り、一組と四組は男子ばかりの組で二組と五組は女子ばかりの組です。

三組だけ男女混合組です。

私達女子組は四年生の時より、おしゃべりが多いにぎやかな組になりました。

先生が、教室や廊下をきれいに掃除することを提案してからは、掃除の時間が一番静かになりました。

お掃除の好きな女子が、教室の教壇や廊下を、ぬか袋でみがき続けます。

だんだん女子組の廊下がピカピカになって、男子組と差がついてきました。

女子組は先生に誉められて、ごきげんです。

気分が悪いのは、男子組です。

掃除が終わる頃、男子達が、廊下のゴミを女子組の廊下に掃き入れて、知らん顔をします。

私達女子が掃き返すと、男子は自分の教室の中のゴミまで、女子組に掃き入れました。

担任の先生が教室にいなかったので、学年主任のK先生の所に訴えに行きました。

事情を話すと、「男子がゴミを掃きいれたので、女子も掃き返したんだね。」「そういうことを『五十歩百歩』と言うのだ。多い少ないの差はあるけど、どちらも同じようなことをしているのだ。解決法を自分達で考えなさい。」と先生が話しました。

私達は、分ったような分らないような感じでしたが、「五十歩百歩ネー」と言いながら、教室に帰って、ゴミを掃き取りました。

次の日校庭で、男子組も女子組も、竹を割って作ったガンザキと言うほうきや竹笹の葉を取って作った竹ぼうきで、桜の花びらやゴミなどを、掃き集めていました。

今度も、男子が集めたゴミを、女子の掃除の場所に掃き入れるのです。

数回そんなことが続きました。

私達女子組は、男子組との境は、男子組の掃除が終わってから、掃くことにしました。

小使いさん(用務員のおじさんのことを、その頃はそう呼んでいました)が石油缶で作ってくれたちり取りが、いっぱいになりますが、男子ともめないほうが、そうじが早く終わります。

「男子は女子にちょっかいを出したいのよ。」「ちょっかいやいたずらを、見ぬふりをしようね。」「負けるが勝ちでいこう。」と言いながら、ゴミを焼却炉に持って行きました。

小使いさんが「ご苦労さん。」と言って、ゴミを焼却炉に入れて、燃やしてくれました。

四年生の時あんなに仲良しだったのに、なんだか変です。

六月のある日、「つぎの土曜日、小学五年生の交流会があるので、代表で行って下さい。遠い小学校なので汽車で行きますよ。」と担任の先生が私に伝えました。

「お弁当を持って来てね。男子の代表の聖君も行きますよ。」とも。

私はとても楽しみになり、家に帰って、そのことを母に話ました。

つぎの土曜日、授業が終わって職員室に行くと、「小使い室の隣の家庭科室で、お弁当を食べてね。」と先生が聖君と私に言いました。

家庭科室の長机にお弁当を出すと、小使いさんがお茶を持って来てくれました。

私はお弁当を開いて、少し驚きました。

時々のお弁当と違って、白いご飯のはしにソーセージと私の好きなしょうがの甘酢づけが一列入っているだけです。

だいたい、ご飯の上に塩こんぶか黒ごまがふってあり、おじいさんが持って来てくれた卵で作った、卵焼きも半個分入っています。

そうだ!以前、「聖君が、お弁当をかくして食べるのよ。」と、母に話したことを思い出しました。

母がそのことを覚えていて、聖君のお弁当と似たように作ったのだと、気がつきました。

聖君は新聞紙を開けて、お弁当を隠さないで、食べ始めました。

聖君と同じようなお弁当と思うと、親しくなった気がします。

聖君の方が早く食べ終わり、「今、これ読んでる。おもしろいぞー。」と字の小さい大人の文庫本を、見せてくれました。

「すごい。難しい本が読めて!」と私は感心して言いました。

表紙の「坂本」の字は見えましたが、下は見えません。

たぶん「龍馬」だったのでしょう。

先生と一緒に汽車に乗ってからも、聖君はずっとその本を、読んでいました。

交流会のある田舎の小学校に、着きました。

初めに、自己紹介と自分の学校のことについての発表です。

その後、壁に貼ってある、その小学校のクラス新聞や学年新聞を、見て回りました。

聖君は、つぎつぎ新聞を読んでいきます。

早く読めるので、またすごいと驚きました。

私達の五年生のクラス新聞は、うまく作れそうに思います。

が、学年新聞は、男子組と女子組の仲が良くないので、作るのは難しいと思いました。

帰る汽車の中で「市内の違う小学校へ行ったことある?」と聖君に聞くと、「隣の小学校に行ったことある。」と応えました。

「私はまだ行ったことないの。」と言うと、「今度連れていってやるわー。」と聖君。

今日は四年生の時と同じように、聖君と仲良くできて嬉しくなりました。

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