第三十一回 昭和三十一年 晩夏 私の町内会子ども会
五年生の夏休み、日曜の早朝です。子ども会のみんなで、バス通りの掃き掃除をすることに決まっていました。
東側のK橋から西側のT橋まで百メートルもない通りなので、K橋からT橋を見ると、渡っている人が誰だか分ります。
男女に分かれて、通りの半分ずつ掃くことにしました。
しかし、男の子達はすぐにほうきでチャンバラごっこや鬼ごっこを始めて、どこかに行ってしまったのです。
日曜の朝でも時間が経つと、通りを自動車が走るので掃除するのは危険になります。
男の子達が、はき終えるのを待っていると、遅くなります。
結局、女の子達だけが、さっさと全部掃除をして、無事終えてホッとしました。。
土曜の夜は「火の用心、マッチ一本火事の元。」と言いながら、カチカチと拍子木を叩いて、子ども会のみんなが夜回りをします。
男の子達が「男女分かれてしよう。その方が早く終わる。」と言います。
こんたんがあったのです。
男の子達が暗い曲がり角に隠れていて、「ワァー。」と驚かします。
女の子達が「キャー。」と声を出すと、男の子達は大喜びです。
負けてはおれないので、私達女の子も、小道の曲がり角で驚かしました。
だんだんエスカレートして、暗い所で男の子が待っていて、懐中電灯を顔面に当てて怖い顔で、急に現れて襲って来ました。
低学年の女の子が泣き出したので、夜回りは中止です。
六年生がお休みでいないので、私達五年生の女の子達が、子ども会の担当の隣の町内に住んでいるS先生の家に、報告に行きました。
男の子達のいたずらがひどいので、伝えようとしましたが留守でした。
帰り道「五十歩百歩」を思い出しました。
「しまったー。私達も驚かしたから失敗したね。」「次からは、男の子達が隠れそうな暗い所へは行かないで、暗い所の夜回りは男の子達に任せよう。」「私達女の子は暗い所は大まわりして、明るい所だけを夜回りしようね。急がば回れだわ。」と女の子達で話し合いました。
瞳ちゃんの家にはテレビがあって、お客さんがない時は見せてもらえるので、私達は早く夜回りを終えたいのです。
男の子達は物足りなかったようですが、無事、夏休みが終りに近づきました。
最後の土曜の夜、子ども会世話役のおじさん達が「お楽しみ会」をしてくれました。
「いなばの白ウサギ」とゆかいなマンガの幻燈の後、怖いお化けの話にゾクゾクしたり、リーダー探しや伝言ゲームなどに夢中になりました。
お楽しみ袋には明治ミルクキャラメルや前田のクラッカーが入っていて大喜び。みんな仲良く楽しく過ごしました。
私達女の子は夜回りの時、先生や子ども会世話役のおじさん達に、男の子達の悪口を告げ口しなかったので、楽しい会になったように思いました。
おわりに「九月には、運動会の町内別リレーの練習をしよう。」と世話役のおじさんが言いました。
おじさんは戦争の時、鉄砲の弾が脚に当たり、まだ脚に弾が残っているけど、走るのが大好きのようです。
リレーの練習を一緒にしてくれるおじさんを、みんな大好きです。
バス通りの南側百メートル位のところに、国道が平行して走っています。
その国道は車も少なく、人通りが少ない歩道があり、そこでけいこをします。
はじめは週一回でしたが、運動会が近づくと、毎日学校から帰って、まず走る練習をします。
夕方になると、おじさんが会社から帰って来るので、バトンタッチのけいこを何回もしました。
運動会当日、町内別に決まった応援場所のゴザの上に、町内のお年寄りから幼い子達みんなが座ります。
みんなの盛んな応援があり、私達は町内会別リレーで、三等賞をもらいました。
「小学校区内で一番子どもが少ない町内なのに、三等賞をもらうとはすごい!」と町内会のみんなが大喜びです。
私達の町内は、バス通りの北五十メートルの所に通りと平行に、鉄道が東西に走っています。
南の国道の向こうには塩田と製塩場があり、百メートル先は海岸ですぐ瀬戸内海です。
鉄道から国道までの間に、四十軒位の家しかなく、何人家族かまでみんなが知っている、小さな町内だったのです。
おじさんが毎日練習を見てくれて、男女仲良しでチームワークがよく、バトンタッチもうまくいったから三等賞になったのです。
学校では五年生の男女は仲良しではないけれど、私達の町内の男女は仲良しでよかったと思いました。
五年生の瞳ちゃんと私は遊んだり走ったりすることは、六年生より得意です。
六年生のかわりにリレーに出て二人とも大活躍して、三等賞になったように思えて大得意でした。
上級生が下級生のかわりに出ることはダメでしたが、下級生が上級生のかわりに出ることは、よいことになっていたのです。